第31号
2005年2月15日発行

大阪体育学会
広報委員会


学会・セミナー委員会講演会報告
学会・セミナー委員会  三野 耕
 平成16年10月9日(土),前国際スポーツ社会学学会会長のノルウェー体育大学Kari Fasting教授を迎えて,大阪体育学会・日本スポーツとジェンダー研究会共催での講演会が,15:00から大阪市立大学・学術情報センターにおいて開催されました.
 悪天候の中,多くの会員の参加があり,Kari先生には『ジェンダーの主流化とスポーツ(Gender Mainstreaming and Sport)』の講演をいただき,また講演会後に行われたKari先生との交流会も盛大に滞りなく行われましたことを報告し,会員の皆様のご協力に感謝し,御礼申し上げます.
写真は日本スポーツとジェンダー研究会理事長 京都教育大学 井谷恵子氏 提供

大阪体育学会・日本スポーツとジェンダー研究会
 共催講演会要旨

『ジェンダーの主流化とスポーツ(Gender Mainstreaming and Sport)』

講演者:Kari Fasting教授(ノルウェー体育大学 前国際スポーツ社会学学会会長)
通訳:鈴木正敏 助教授(兵庫教育大学)
日時:平成16年10月9日(土)15:00〜17:00
場所:大阪市立大学 学術情報センター 文化交流室

ジェンダーの主流化とは

 「ジェンダーの主流化」という戦略は、ジェンダー平等(gender equality)を促進する新しいアプローチとして1990年代から採用されてきた。J.Lober(1994)によれば、ジェンダーは「人々を二つの不平等に価値づけられたカテゴリーへ分割するものであって、社会を組み立てている一つのプロセスであり、社会を階層化している一つのシステムであり、一つの制度である。したがって、ジェンダーはセクシュアリティや言語や文化と同じように、家庭や職場や国家に埋め込まれており、私たちの生活のあらゆる側面 を構造化」している。これらのことは、スポーツにも同様にあてはまる。

 では、ジェンダーの主流化とは何なのか。T.Rees(2002)によれば、「ジェンダー主流化とは、ジェンダーの平等を、あらゆるシステムや構造の中に、すなわち、諸々の政策・企画・手続き・プロジェクトの中に、また諸文化や諸組織の中に、理解をしたり活動をしたりするやり方の中に、システマティックに溶け込ませること」である。ジェンダー主流化は、既存のシステムや構造が「制度的に性差別 的」である諸点を示そうとし、ジェンダー・バイアスを中立にしようとするのであって、男性と女性に対して等しく役立つ政策や経過を生むためのアプローチとしてみることができる。

 ジェンダーの主流化が実践される以前には、機会の平等(equal opportunities)を求める二つの戦略があった。ひとつは、1970年代の平等な扱い(equal treatment)であり、他のひとつは1980年代のポジティブ・アクション(positive action)である。平等な扱いは、女性を男性と同じに扱うことを意味している。しかし、男性の基準にそって女性を扱うことは平等な結果 を導くことにはならない。ポジティブ・アクションは、女性と男性の間には類似があるとしても、異なっていることを認め、その相違を埋めていこうとするものである。例えば、女性だけのトレーニング・コースのようなものがある。あるいは、男性とより対等になるように女性を援助する工夫がなされている。例えば、定数の割当やポジティブな差別 待遇のように優先的扱いを行うものもある。これらの戦略はあまりうまく進まなかったため、補完するものとしてジェンダーの主流化がでてきたのである。

男性文化に支配されているスポーツ組織

 ジェンダー主流化は、個人から目をそらせ、ジェンダーの不平等を生み出すシステムや構造に焦点を合わせ、システムや構造の中に平等を培うものを組み込んでいくというアプローチである。ジェンダーの主流化が促進される理由を、女性のリーダーシップの問題に見ていこう。つまり、この20−30年間に女性選手は増加したけれども女性リーダーが育っていないという現実がある。

 Fastingら(2000)の調査研究によると、女性がスポーツ組織のリーダーシップを担う際の最大の障害は、スポーツ組織が男性文化に支配されていることである。男性たちは、女性がリーダーになれない理由を女性の個人的問題であると考えているのに対し、女性たちは組織の構造に問題があると考えていた。例えば、インフォーマルな構造があり、そこでのミーティングで重要なコンタクトがなされたり、人員補充のプロセスや人事の「本当の」基準が何であるのかが女性にオープンにされてなかったりした。もう一つの重要な要因は、組織がダブルワーカーとしての女性の生活にフィットしていなかったことである。スポーツ組織を含む社会そのものが、家庭生活での様々な負担を男女が共有するような方向へ構造化されなければならない。もし、そうしたことが可能になれば、リーダーシップのようなレジャータイムの諸活動でも様々な仕事を共有することがより容易になるであろう。

 スポーツ組織のジェンダー構造を理解し、どのようにすれば組織内の女性に利するような形でこの構造が変革されうるのかを考えるとき、女性たちが男性を基準にして形成されている言葉、象徴、神話、信念や価値観などのスポーツ文化を学ぶやり方ではなく、男性と女性では組織に対して異なった貢献の仕方があることを理解しなければならない。